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2026.09.30

デザイナーインタビュー

デ!さんぽ ~デザインのみちくさ~ Vol.6
迷わないために、迷っておく

「デ!さんぽ デザイナーインタビュー」は、SAITAMAデザイナーズバンクに登録するデザイナーと一緒に街を歩きながら、その人が普段どんなところに目を向け、何を考えているのかをのぞいてみる企画です。

第二弾となる今回は、戸田市を拠点に活動する「由デザイン事務所」のキクチ ヒロミチさんと、戸田公園を歩きました。

普段は何気なく通り過ぎている案内板も、サインデザイナーと一緒に見ると、少し違って見えてきます。

公園を歩いていると、いくつかの案内板(サイン)を見かけました。

サインを見つけるたびに立ち止まり、気になるところを聞いたり、デザインするときに意識していることを聞いたり。そんな話をしているうちに、話題はサインをつくる前の「考える時間」へと広がっていきました。

サインの仕事では、掲示物の大きさや、見る人との距離、その人がどんな状況で目にするのかまで考えることが必要とのこと。そのため、渡された文章をそのまま表示すればいい、というわけではないそうです。

「日本語は、最後まで読まないと結論が分からない文章になることがあります」とキクチさん。

たとえば、
「この先は道が細く、滑りやすいので、立ち入りはお控えください。」
文章としては自然です。

でも、歩きながら目にするサインなら、
最初に伝えるべきなのは、 「立入禁止」 なのかもしれません。

文章や依頼の中から、いちばん大事なことを見つけ、それをまず伝える。
文章として自然であることと、その場で直感的に伝わることは、少し違います。

仕事をしていると、「これ、きっとこうしたいんだけど、違う言い方で言っちゃってるな」と感じることもあるそうです。

そんなときは、そのまま形にするのではなく、一度確認する。
場合によっては、二つの案をつくることもあると言います。

一つは、「依頼された通りにつくった案」
もう一つは、「本当にやりたいことはこちらではないか」と考えた案。

「そこら辺が、私としてはデザインをするところ。割と重要なポイントだと思っているので」

キクチさんが大切にしているのは、文字を選んだり、色を決めたり、形をつくったりする、その少し前の部分のようです。

何を伝えるのか。
誰に伝えるのか。
このやり方で、本当に伝わるのか。

「その情報を整理することが、一つ重要な仕事」 すぐに形にするのではなく、一度立ち止まって考える。

案内板を見ながら話を聞いているうちに、キクチさんが見ているのは看板そのものではなく、その看板の前にいる「人」なのかもしれない、と感じました。

そんな話をしているうちに、少し脱線して、キクチさんの趣味である山登りの話になりました。

どの山にするか。
どのルートを通るか。
鉄道やバスは何時なのか。
そのコースは、自分の体力に合っているのか。

まず情報を集めて、それを整理しながら、一つの計画を立てていくそうです。

「これでいいかなと思っても、また別の日に見直すと、ちょっと違うかもしれないと思うこともあります」

その話を聞いていて、ふと気になりました。
「それって、キクチさんの仕事と似ていませんか?」
するとキクチさんも少し笑いながら、
「確かに、似ているところがあるかもしれませんね」と答えてくれました。

必要な情報を集め、条件を整理し、一度組み立ててみる。

そして、少し時間を置いて、もう一度見直してみる。

山登りの計画とデザイン。

まったく違うことのようでいて、キクチさんの中では、どこか同じ「考え方」でつながっているのかもしれません。

では、実際に歩き始めてから迷うと困ります。

だからその前に、いくつものルートを見比べる。
天気や交通手段、自分の体力まで考えて、進む道を決めていきます。
最初に決めた道をそのまま進むのではなく、一度考えて、必要なら選び直す。

「迷わないために、先に少し迷っておく」

考えてみれば、デザインも似ているのかもしれません。

最初に出てきた言葉やアイデアを、そのまま正解にしない。
もっと伝わりやすい方法はないか。
別の考え方はないか。
そもそも、何のためにつくるのか。
いくつかの道を思い浮かべて、行ったり戻ったりしながら、進む方向を決めていく。
デザインの仕事には、手を動かす前にたくさんの分かれ道があります。
すぐに答えをつくるのではなく、どの道を選ぶのかを考える。

そんな「迷う時間」も、デザインの一部なのかもしれません。

そして少し面白いのは、「人を迷わせない”ためのサインデザインを得意とするキクチさん自身が、山では進む道をじっくり迷っていること。」 その姿を想像すると、なんだか少し微笑ましく思えました。

—— そんな話を聞いたせいか、帰り道くらいは地図を見ずに、少し迷いながら帰ってみるのも悪くない気がしました。

今回一緒に歩いた人