2026.08.31
デ!さんぽ ~デザインのみちくさ~ Vol.5
値段じゃない瞬間の話
先日参加したデザイントークイベントで、こんな話がありました。
そのイベントでは企業における経営課題を「アート・クラフト・サイエンス」という3つの視点から考える、という話です。

アート(組織の創造性・ビジョンなど)
クラフト(現場の知見・技術など)
サイエンス(理論・分析など)
この3つのバランスがとても大事だ、という考え方です。
デザイナーとして多くのものづくりの現場に携わってきましたが、この3つのバランスの大切さは、実際の現場でもよく感じます。
技術がしっかりしていること。
理屈として価格や機能などの説明がつくこと。
どちらもとても重要であり、どの企業さんも真剣に向き合い取り組んでいる。
ただ、それだけでは消費者から選ばれない瞬間もあるのが事実です。
私自身、何か商品を購入しようと思った時に、最初は機能も価格も似ているもので比べていたはずなのに、最後は「なんとなくこっちがいいかも」で選んでしまうこともあります。理由を探す前に、気持ちの方が先に動いているような感覚です。
そういう場面では、値段やスペックとは少し違うところで、何かが決まっている気がします。
たとえば、パソコンやスマホの製品。
スペックだけ見れば他にもいろいろあるし、最近は安い商品もどんどん出てきます。
だけど気づくと「これがいい」という理由で予算オーバーしてしまう。
使ったときの印象や、手に取ったときの気分。
その製品と過ごす時間そのもの。
ワクワク感や期待感という感情。
企業が何を大切にし、どんな未来を描いているのか。
そうしたものは、製品の佇まいや使い心地、その製品と過ごす体験の中にも、少しずつ現れてくるように思います。
私たちは技術や理論だけではない、その商品を届ける企業の「アート」の部分にも惹かれているのかもしれません。
会社として何を大切にし、どんなモノをつくり、届けていくのか。
そういう積み重ねの先に、消費者の心が動く瞬間があるように思います。
アートだけでも、逆に技術や理屈だけでも、なかなかそこにはたどり着けない気がしています。
これまで関わってきたものづくりの現場を振り返ると、技術や品質についてはしっかりと考えられていても、「人の心がどう動くか」という話になると、途端に答えが曖昧になることがあります。
値段や機能だけでは決まらない瞬間。
「かっこいい」「なんとなく好き」といった、数値化できないデザインの要素が、最後の選択を動かすことがあります。
そこには、その人がこれまで積み重ねてきた記憶や経験、価値観も重なっています。
人の心がどう動くのか。
一見すると非合理に思える部分にも、ものづくりのヒントがあるのかもしれません。
——そんなことを考えながら、
ふと空を見上げたら、雲が人魚みたいに見えました。
コーヒーでも飲んで帰りたくなった日でした。
